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2021.09.16

心理学科

教員コラム『うなずきの思い出』

今日の学科Todayの記事は、心理学科の斎藤富由起先生が執筆してくださっています。
「うなずきの思い出」という大変興味深いテーマです。是非、ご一読ください。
私は一度働いた後に、大学の心理学科に入りなおしました。何年かぶりに大学生となり、大学に登校し、臨床心理学を学んでいるAさん(当時、臨床心理学を学んでいた大学3年生の女性)と初めて話をする機会がありました。
私が「すみません、この授業は席が決まっていますか」と聞いた瞬間、Aさんは突然“フムフムフムフムフム”と高速のうなずきをみせました。私はびっくりしてしまい、話を続けることができませんでした。その後、カウンセリングの演習を受けた際、「高速のうなずき」、「やや遅めのうなずき」、「ゆったりとしたうなずき」など、うなずきにも様々な種類があることを知りました。社会人として入学したうえ、やや不愛想なところのある私は「本当に大学生としてここでやっていけるだろうか」と心配になったことを覚えています。「うなずきすぎると、かえって変じゃない?」と当時思ったのも事実です。

また、別のうなずきの思い出を紹介します。ある日、奨学金取得のための面接を受けることになりました。面接中、私の経済状況を面接官に話しはじめたその時です。4人いた面接官の一番左端に座っておられた男性教員が、私の話を聞きながら、わずかに、本当にわずかに、左目をほそめました。その時の眼差しは今でも忘れられません。私は、あたかも心を優しくつかまれたような感覚に陥り、その先生を見つめ返しました。

すると、そのあと、その先生はゆっくりと、そして小さくうなずきました。

すると、数秒前までは奨学金の面接という緊張する時間であったのに、私の体験の質が変化したのです。なにかもっと深いところで受け入れられているような感覚を覚えました。わずか10分の体験でしたが、この時の体験は現在も私の身体に残っています。この先生は、スクールカウンセリングがご専門のK教授でした。

こうした思い出を振り返りながら、うなずきも、特有の人間関係の中で生じる表現の一つということの重要性に気がつきます。
うなずくか、うなずかないかという二者択一ではなく、その会話全体が自然か不自然かであること、そして、うなずき一つで、その場で起きている体験の質がかわることなど、本当の意味で私自身が理解するまでには、(私は不勉強だったので)その後、数年かかりました。

 

みなさんもカウンセリングを学ぶと、相談される機会も、そしてうなずく量も増えると思います。その時、思い出してください。うなずきは、うなずく前の一瞬の表情にコツがあります。そして、うなずきは、量ではなくて質が大切なんですよ。