国際キャリア学科(ICD)3年生以上を対象とする「Current Business」(担当:山口)は、世界とつながるビジネスの第一線で活躍されてきた様々な業種の方を招き、実務の視点から日本の産業や企業経営、国際展開などについてご講義いただくオムニバス形式の授業です。先日の講義には、戦後の日本の高度経済成長を支えた繊維産業の歩みと現状、課題について、高品質のシャツの製造で知られるHITOYOSHI株式会社の竹長一幸取締役工場長をお招きして、ご講義いただきました。
講義では、同社の所在地である熊本県人吉市について心のこもったご紹介をいただいたのに続き、竹長工場長ご自身のキャリアの歩みと重ねながら日本の繊維・アパレル産業の変遷や近年の動向についてわかりやすく解説いただきました。竹長工場長は高校卒業後、大分県に工場を持つアパレル企業に就職されました。当時は日本で販売されているシャツの5割は日本製で、竹長工場長が勤められていた企業も大分県内に製造拠点を持っていました。入社3年目に竹長工場長は人吉市に新設された工場に移られます。そのころから人件費等製造コストの上昇に伴い、繊維・アパレル産業では海外への製造拠点の移管が進みます。竹長工場長も中国の北京近郊にある工場に何度も長期出張し、技術指導に当たられました。竹長工場長はその時の経験を踏まえ、学生たちに「海外勤務、海外出張では何よりも体調管理が重要です。そして、言葉よりも度胸が大事です」とアドバイスいただきました。
その後、プラザ合意(1985年)以降の急速な円高や最新トレンドを採り入れながら低価格に抑えた衣料品を短い商品サイクルで大量に販売するH&MやZARA、GAP、GU、ユニクロなどに代表されるファストファッションの伸張に伴う価格競争の激化で、日本の繊維・アパレル産業は生産量、企業数、従業員数とも縮小を続けます。中国、ベトナム、インドネシア、最近ではバングラデシュ、カンボジアなどからの低価格の製品の流入で、国内で販売されるシャツに占める日本製の比率は2024年にはわずか2%にまで低下しました。同じく1988年頃は約900あった国内のシャツ工場の数も約40にまで減少しました。竹長工場長が勤務されていた業界トップの大手シャツ・メーカーのトミヤアパレルもリーマンショック(2008年)による景気悪化の影響を受けて2009年に経営破綻します。そこで、竹長工場長は吉國代表取締役とともに企業再生ファンドの支援を受けて同社の人吉工場を買収して、HITOYOSHI株式会社を設立されました。
HITOYOSHI株式会社は、創業当初は100%OEM生産(*)からスタートしたものの、MADE IN JAPANにこだわった丁寧なシャツ造りが評価され、また販売店との直接取引により中間マージンを省き、価格帯を抑えたことなどが奏功し、近年では著名人も愛用する人吉発の高級シャツ・ブランドとして注目を集めています。現在は年間で約10万着のシャツを生産し、自社ブランドで販売しているほか、ビームスやシップス、ポールスミス、コム・デ・ギャルソン、ユナイテッドアローズなど、セレクトショップや著名ブランド向けのOEM生産も行っています。竹長工場長は、生産コストの低い海外製品に対抗し、今日の評価を得るために、納期が短い(海外工場は短くても3か月だが、同社では1か月から対応)、ロッドが小さい(同社では一色一サイズ5枚程度からでも対応)、仕様が複雑など、海外メーカーが嫌がる仕事をあえて積極的に受注されてきたこと、何より日本ならではのきめ細かい「ものづくり」に注力されてきたことを詳しくご説明下さいました。
*OEM(original equipment manufacturer):他社ブランドの製品を製造すること、ないしはそうした製造を行う企業のこと。
講義の後半には、従業員の高齢化が進むなかでの人材の確保、若手の育成と技術の継承など、現在、抱えておられる経営課題、そしてベトナム企業との協力体制(さらにはベトナムという国の魅力)についてもご紹介いただき、同社の目標として「大量生産、大量消費ではない持続可能な『ものづくり』の精神や技術を次の世代に継承し、旅行用トランクの工場からスタートしたルイ・ヴィトンやカバンの修理からスタートしたグッチなどのように世界に通用する一流のファクトリーブランドになることです」と語られました。
講義の最後には、人生百年時代を迎える今、学生たちに身につけてほしい社会人基礎力についてもお話しいただきました。学生たちは終始、穏やかに、静かな情熱を込めてお仕事について語られる竹長工場長の講義に聴き入っていました。
講義後には、家庭でもできるシャツの上手なアイロンのかけ方を実演しながらご教示いただき、学生の代表としてA.Yさん(福岡県立香住丘高等学校出身)とM.Aさん(筑陽学園高等学校出身)の二人が登壇し、アイロンがけに挑戦しました。
なお、これまで竹長工場長の講義を聴いた国際キャリア学科(ICD)の卒業生からは、ユナイテッドアローズ、リンク・セオリー・ジャパン、アダストリア、アーバンリサーチ、サマンサタバサジャパンリミテッドなどのアパレル・メーカーで活躍する学生が出ています。以下は、受講した学生の感想(代表)です。
M.Mさん(熊本信愛女学院高等学校出身)
竹長取締役の講義を聞いて、「技術」というのは人の心や誠実さが支えているものだと気づきました。仕事というのはお金のためだけにするものではなく、信念を持って取り組むことで、人の心を動かすことができるのだと思います。HITOYOSHIとその製品が評価されているのも、根底に「人と人との信頼」があるからだと感じました。講義を通して、私は改めて「自分の手で何かを生み出すこと」の尊さを学びました。どんなに時代が進んでも、人の思いがこもった仕事には必ず価値があると思います。将来、私も自分の得意なことや好きなことを見つけ、それを誰かのために活かせるような人になりたいです。
M.Oさん(佐賀県立鳥栖高等学校出身)
「働くことの本質」と「就職活動の意味」について深く考えさせられました。これまで、私は就職活動を「安定した会社に入るための競争」と捉えていましたが、「自分がどのように社会に貢献したいのか」を軸に考えることが本当の就職活動なのだと思いました。講義で特に印象に残ったのは、HITOYOSHIが「地方から世界に誇れるものづくり」を目指しているという話です。竹長取締役は「地方でも、志と努力次第で世界に挑戦できる」と語られており、その言葉に胸を打たれました。また、同社が大切にしている「人の手による品質」や「職人の技術を次世代につなぐ」という考え方にも深く共感しました。効率だけでなく、「心のこもったものづくり」を重視する姿勢は、これからの社会に必要な価値観だと思います。竹長取締役の「技術は人が人に伝えてこそ活きる」という言葉は、どの業界にも通じる真理だと感じました。 就職活動では、単に雇用条件で会社を選ぶのではなく、「自分の志」と「会社の理念」とが重なる場所を探したいと思います。将来の自分の生き方を見つめ直す貴重なきっかけとなりました。
Y.Sさん(長崎県立佐世保東翔高等学校出身)
HITOYOSHIは著名なブランドのシャツ製造を手がける企業としても知られており、地方に拠点を置きながらも世界に通用する品質を追求している点が特徴的です。講義を通して、地方企業だからこそ発揮できる強みや伝統を守りながら新しい価値を生み出す姿勢の大切さを学ぶことができました。多くの若者が都市部に流出していくなかで、地方に拠点を置き続けることは容易ではありません。しかし、同社では地元の人々と協力し、地域に根ざした雇用を生み出すことで、地域社会の活性化にも貢献していると聞き、「人と地域をつなぐものづくり」という理念を強く感じました。竹長取締役は「品質へのこだわり」についても詳しく語られました。HITOYOSHIでは1枚のシャツを完成させるまでに多くの工程があり、その一つひとつを熟練した職人が丁寧に仕上げています。効率化が重視されるなか、こうした手作業を大切にする姿勢は非常に印象的でした。竹長取締役は「効率を求めるだけでは、真に良いものは生まれない」と語られており、その言葉には深い説得力がありました。ものづくりの背景には「人の想い」や「地域への愛情」があることを実感しました。竹長取締役の言葉には、地道に努力を積み重ねることの尊さと地方からでも世界を目指せるという強いメッセージが込められていました。今後の進路を考えるうえでも、自分の地元や身の回りにある価値を大切にし、それをどのように社会に活かせるかを意識していきたいと思います。
R.Yさん(神村学園高等部出身)
S.Aさん(福岡県立鞍手高等学校出身)
竹長取締役からは講義の最後にシャツのアイロンがけの仕方についても教えていただきました。普段、シャツを着る機会が少ない私にとって、実際の手順を学ぶのは新鮮で、社会人としての身だしなみを整えることの大切さを感じる体験となりました。細部まで丁寧に仕上げる姿勢は仕事にも通じるものがあると思います。講義を通して、「日本のものづくりの誇り」と「人としての成長」の両方の大切さを学ぶことができました。これから社会に出ていくなかで、この講義で得た学びを忘れず、自分も誇りを持って行動できる人間でありたいと思います。
A.Hさん(福岡県立新宮高等学校出身)
講義を通して強く感じたのは、「地方だからこそできる仕事の価値」です。人吉という自然と歴史に恵まれた土地で、世界に通用する品質を追及する姿勢は日本のものづくりの原点のように感じました。大量生産・大量消費の時代が終わりを迎えるなかで、HITOYOSHIのように手間を惜しまない丁寧なものづくりを続ける企業がこれからの社会においてますます重要になると感じました。私自身も将来、どんな職業に就くにしても自分の仕事に誇りを持ち、人に信頼される働き方をしたいと改めて思いました。
N.Oさん(福岡県立新宮高等学校出身)
R.Oさん(福岡市立福岡女子高等学校出身)
HITOYOSHI株式会社の竹長取締役より日本のものづくりの魅力や企業として大切にされている理念についてお話を伺いました。HITOYOSHIは高品質なシャツづくりで高く評価されているアパレル企業であり、講義を通して「本物をつくる」ことの重みや仕事に対する誇りの大切さを改めて感じました。私自身、ファッションやデザインに興味があり、講義を通して「見た目の美しさ」だけでなく、その背景にある「想い」こそがブランドの信頼を生むのだと学びました。「地域とともに生きる企業」というお話も印象的でした。HITOYOSHIは人吉市に本社を置き、地域の雇用や技術の継承にも力を入れています。「人を大切にする経営」について話されたことも心に残りました。社員一人ひとりが仕事に誇りを持ち、チームとして支え合う環境を作ることが良い製品づくりにつながるというお話でした。技術やデザインも大切ですが、それを支えるのは「人」であり、人を大切にする会社こそが長く続くのだと学びました。将来、どんな仕事に就いても「人の心を大切にできる社会人」でありたいと思います。
Y.Tさん(福岡県立香住丘高等学校出身)
講義の中で最も印象に残ったのは、「国内生産の強みを活かしたブランド価値づくり」という点です。世界的に見ても日本製品は品質の高さで評価されていますが、アパレル業界では人件費の安い海外生産への移行が進み、国内工場の数は減少しています。そのような状況のなかで、HITOYOSHIは熟練した職人の技術を守りながら、パターンオーダーや高級ブランドとの協業を行い、ただ製品を作るだけではなく、「価値」を提供するビジネスモデルへと進化していることが分かりました。工場がある熊本県人吉市の地域性にも注目しました。人吉は自然豊かな環境と観光資源を持つ一方、過去には大規模な自然災害や人口減少といった地域課題も抱えてきた土地です。そのなかで、HITOYOSHIが雇用を生み、地域産業として発展してきたことは、人吉という街にとっても非常に大きな意味を持っています。ものづくり企業が地域の活性化に貢献しているという視点はこれまであまり意識できていなかったため、新鮮でした。さらに、講義でご紹介いただいた人吉の景観、歴史的な背景を知ることで、「地域文化とものづくりは結びついている」という理解が深まりました。例えば、清流と自然に囲まれた環境が丁寧なものづくりの精神につながっていると考えると、製品の持つ価値がより魅力的に思えてきます。今回の講義を通して学んだことは、航空業界などサービスを提供する企業にも共通する点が多いと感じました。お客様に安心や満足を届けるためには、努力や品質へのこだわりが欠かせません。私自身、将来は航空会社のグランドスタッフとして働きたいと考えているので、「見えない部分への丁寧さ」が信頼につながるという点を大切にしていきたいです。
A.Hさん(福岡県立嘉穂高等学校出身)
講義を通して、日本のアパレル業界がどんな変化をしてきたのかについて学ぶことができただけでなく、「挑戦する勇気」と「丁寧に作ることの大切さ」を学びました。竹長様の穏やかな話し方のなかにも強い思いが感じられ、とても心に残る時間でした。私も自分のやりたいことに対して前向きに挑戦できる人になりたいと思います。
H.Kさん(福岡大学附属若葉高等学校出身)
講義を通して、ものづくりの現場には「効率」だけでなく「信頼」や「誠実さ」といった価値が息づいていることを学びました。竹長取締役の「小さな工場だからこそできることがある」という言葉が特に印象に残りました。大量生産ではなく、一枚一枚のシャツに思いを込める姿勢は、日本のものづくりの強みそのものであると感じました。私もHITOYOSHIの方々のように「人の信頼を得る仕事」を目指したいと思います。自分の将来について考えるなかで、「誇りをもって働ける仕事とは何か」ということを大切にしていきたいです。
S.Nさん(福岡大学附属若葉高等学校出身)
HITOYOSHIとは「人と地域と世界をつなぐ企業」であると感じました。ものづくりとは、製品を作ることだけでなく、その背景にある想いや地域の力を形にする仕事であることを学びました。竹長取締役の言葉には、「仕事を通じて誰かを幸せにする」という想いが常にあったように感じます。この講義を聴き、仕事に対する考え方が大きく変わり、「人を大切にする姿勢」と「誠実な努力」が信頼を生むということを学びました。自分が将来、働く時も、ただ目の前の業務をこなすのではなく、その先にいるお客様や地域の人々のことを考えながら取り組みたいと思います。
Y.Sさん(ルーテル学院高等学校出身)
講義を通して、「地方からでも世界とつながれる」「努力と信頼があれば必ず可能性は広がっていく」ということを実感しました。私もこれから、どんな道に進んでも自分の力を信じて行動できるような人になりたいです。また、講義の最後にアイロンがけの方法を教えていただいたのも印象に残りました。私はこれまでアイロンがうまくできず、苦手意識があったのですが、正しいかけ方やそのポイントを学ぶことができてとてもためになりました。今後、就職活動などでシャツやスーツを着る機会が増えるので、今回、学んだことを活かして、身だしなみにもしっかり気を配りたいと思います。
「Current Business」




