鹿児島県出水市は鶴の渡来地で有名です。毎年10月の中頃になるとそこで越冬する鶴のニュースでにぎわいます。その一方で、出水市にかつて旧陸軍の海軍基地があったことはあまり知られていません。公害の研究で県境を挟んだ熊本県水俣市に一時期住んでいたにもかかわらず、以前はまったく関心がなく、車で20分もあれば行けるその土地に私は足を運ぼうともしませんでした。

しかし今年は二度、戦争関連のフィールドワークで出水市を訪れ、「人と出会い直す」という経験をしました。以前から親しくしていた友人が、自身の戦争体験を語ってくれたのです。子どもの頃に基地の近くに住んでいて、毎日飛行機の発着を眺めていたこと、その飛行機が攻撃を受けて爆発したのを目撃したこと、敵機の銃撃を受けて死にそうな思いをしたことなどです。

戦跡を案内してくれた人たちが100名の戦争体験談をまとめて冊子にしています。戦争を記憶している世代は年々減少し、その体験を拾い集めて残していくという作業はたいへんだったそうです。くしくも私は戦争の体験者から後世に伝えるべき貴重な話を直接聞けたわけです。しかも昔から家族づきあいのあった身近な人からです。

みなさんも大学という新たな環境で、さまざまな人や新しいものと出会うはずです。もしかしたら、みなさんの隣にいる人が自分にとって将来大事な人になるかも知れません。みなさんのすぐ隣にあるものが自分にとって将来必要なものになるかも知れません。これからの出会いを大切に。

ご入学おめでとうございます。

（学科長　池田理知子）