学科 Today

  1. HOME
  2. 学科 Today
  3. 人間関係学部
  4. 心理学科
  5. インターネットの心理学

2020.10.14

心理学科

インターネットの心理学

 コロナ禍の中、学生の皆さんの生活において、オンラインによる講義が日常となりつつあります。以前からすでに皆さんの生活の一部となっていたインターネットですが、今後さらにその存在感を増していくように思います。その中で先日、大学のチャペルにおいて、私の専門とする社会心理学・組織心理学の立場から「インターネットとの関わり」について話をしてきました。今日はそのときの内容を紹介します。

 ぜひ、皆さん自身のインターネットとの付き合い方を再考するきっかけになればと思います。

インターネットの普及と広告費の上昇

 毎年,広告代理店の電通が日本の広告費用として1年間に使われた広告費の統計データを毎年発表しています。一年間に国内で使用された広告費の合計金額の推移も興味深いのですが,広告費の内訳にも関心を寄せていました。これまでの長い間,広告費の上位4位を占めてきた4大マスメディアに変化が生じていたからです。メディアとは,企業や団体が消費者に向けて発信するメッセージをのせる媒体のことと思ってください。例えば,自社の商品を買ってほしいと企業が思うとき,その広告やメッセージをどの媒体(メディア)で伝えているでしょうか。 予算規模の大きい4つのメディアを見ていくと、テレビ,新聞,雑誌,そしてラジオとなります。これらのメディアが長く上位4位を占めてきましたが、近年そこに新しいメディアとしてインターネットが存在感を増していました。

 インターネットの広告費は,2009年に新聞広告を抜き,それから10年経過した2019年にはテレビの広告費を超えて最も大きな割合を占めるようになりました。全体の広告費6兆9381億円のうち約30%に該当します。その背景には,私たちの生活に,インターネットが広く普及したことが伺われます。学生の多くの方が,テレビを見ている時間より,スマートフォンやパソコンでインターネットに触れる時間の方が長くなりつつあるのではないでしょうか。今後も,私たちの生活においてインターネットの存在感は増していくと予測されます。その中で私たちがインターネットとどのように付き合っていくかを考えることは悪いことではなさそうです。

インターネットの長所と短所

 それではまず,インターネットの長所を考えてみましょう。従来指摘されているのは,物理的な距離の制約や時間の制約から開放されることです。そのため,遠く海外にいる人と交流をしたり,情報を得ることができるようになりました。各個人の都合のよいときにインターネットを使用できるため時間の制約もなくなります。また,対面の場にでかけることのできなかった身体的・心理的なハンディキャップを持つ人がインターネットの利用によって活躍の場を得ることが可能となりました。これは,ハンディキャップや社会的制約からの開放と呼ぶことができます。以上のことからインターネットの利用は多様性のある協働や交流が可能となることが大きな利点といえるでしょう。


 一方で,インターネットの利用によって多様性が失われる現象も指摘されています。ひとつは「フィルターバブル」と呼ばれる現象です。これはユーザーの個人情報を学習した検索エンジンやSNSなどのアルゴリズムによって,ユーザーに提供される情報の最適化が生じ,その人が見たいと思う情報だけが表示されることを意味します。同時に,ユーザーが見たくない情報はフィルターによって弾かれてしまい目にすることができなくなる状況です。もうひとつの類似した現象は「エコーチェンバー」です。これはSNS上でのユーザー自らが自分と似た興味関心を持つユーザーをフォローすることで,結果的に見たいものや聞きたいものだけを選び,見たくないものから目を背けて,閉じた情報環境を作ってしまうことを意味します。エコーチェンバーは,閉じた小部屋で音が反響する物理環境に例えてつけられた名前です。こうしたインターネット環境下では,自分と似た意見や情報ばかりがまわりに集まり,意見の偏りや正当化が進みます。そして,異なる意見を持つ他者や集団との交流の機会を失い,意見の対立や社会の分断が強まることが危惧されています。(近年では,これらのエコーチェンバー現象は,インターネットに限らず現実の生活環境でも生じていることが指摘されています。)

大事なものを見失わないように

 インターネットに限らず,何事も道具には,良いところと悪いところがあります。それを生かすことができるかどうかはそれを使う人間次第ではないでしょうか。道具に振り回されることなく,それを生活に生かすための知恵を私たちは身につける必要があるのかもしれません。世の中では,それをメディアリテラシーやネットリテラシーと呼ぶのかもしれません。また,批判的思考力ということもできるかもしれません。その力を身に着けて,インターネットという情報の海の中で,私たちは大事なものを見失わずに未来へ進んでいければと思います。

 

【参考文献】

電通 2019年日本の広告費 https://www.dentsu.co.jp/knowledge/ad_cost/

松尾太加志 (1999). コミュニケーションの心理学―認知心理学・社会心理学・認知工学からのアプローチ ナカニシヤ出版

笹原和俊 (2018).  フェイクニュースを科学する 拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ 化学同人