【百読百鑑Index】第6期朗読募集
(高校生対象)
2013~2023年開催「言語芸術朗読コンテスト」の後継企画
福岡女学院大学人文学部言語芸術学科には年度の枠を越えてたくさんの本や映画と向き合っていく「百読百鑑」という授業があります。そしてまた昨年度からは学外のみなさまにもその作品世界の一端に触れていただけますよう、名作文学の一部を朗読によって紹介していく「百読百鑑Index」というものを学科インスタグラム【gengo_fukujo】上に連載しています。
言語芸術学科といたしましては、高校生(性別不問)のみなさまにも是非このIndex制作にご参加いただきたく、「朗読」の投稿を広く募集しています。
順次、期間を設けながら日本近代文学を出典とする課題文をこの学科HP上に掲示していきます。課題文の中から一つでも複数でも選んでいただき、その朗読をご自身で録音(スマートフォンの「ボイスメモ」可)し、MP3形式でメールに添付してお送りいただく形での投稿となります。
その作品世界を感性豊かに表現してくださった朗読は、学科インスタグラム上に「百読百鑑Index」の一つとして掲載させていただき、特製ブックマーカーおよび図書カード(3000円分)を贈呈いたします。
- 第6期の募集期間は2025年11月1日から12月22日までです。三つの課題文を下部に掲載しています。一つでも複数でも投稿可能です。
- 一つの課題文の録音は90秒以内に収めてください。
- 複数の録音を投稿される場合は、一通のメールにつき録音は一つずつでお願いします。(圧縮はしないでください)
- スマートフォンで録音する場合は「録音補正」等のノイズ除去機能をお使いください。
- 投稿のメールに「お名前・高校名と学年・(差支えなければ部活動)」を明記してください。音声ファイルの受領後には受領確認のメールを、各期の締切後には選考結果のメールを、お送りいただいたメールアドレスに返信いたします。
- タイトル・作者名・ご自身のお名前等は発声せずに、課題の箇所のみを朗読してください。
- MP3のファイル名は「お名前_作品名」としてください。メールの件名は「百読百鑑Index第6期投稿」としてお送りください。
- ファイルにパスワードはかけないでください。
- 「百読百鑑Index」に掲載する際はお名前はニックネームで表示しますので、掲載が決まった時点でメールにてニックネームをお伺いします。
- ご投稿・ご質問は、福岡女学院大学人文学部言語芸術学科【fjgengo@fukujo.ac.jp】【092-575-5873】でお待ちしております。
◆第6期課題文
【与謝野晶子『いろいろのお客』より】
いろんなお客様の来ることを楽しみに思っている花子さんの家(うち)へ、山のお猿が出て来ました。
「御免なさい。」
「どなたですか。あなたは。」
「猿でございます。」
「そうですか、よく遊びにいらっしゃいました。さあどうぞ、お上がりください。」
と花子さんは言うのでした。
「上がってもよろしいのですか。」
「ええ、どうぞお上がりくださいまし。」
「じゃあ、上がらせてもらいます。」
と言ったかと思うと、お猿は玄関の脇の竹垣をするすると登って屋根の上へ上がってしまいました。
「お猿さん、お猿さん、そこは屋根ですから、お座敷へおいでなさい。お猿さん。」
驚いた花子さんは大きい声でこう言いましたが、屋根の上であたりを見下ろして喜んでいるお猿さんには聞こえませんでした。
そこへまた一人の客が来ました。それは狸でした。
「御免なさい。花子さんのお家(うち)はこちらですか。」
「はい、そうです。あなたはどちらから。」
「私は山のたぬです。」
「たぬ子さんですか。」
「いいえ、たぬきです。」
「あ、そう。よくおいでになったのね。さあ、ずっとお入りなさい。」
花子さんは「お上がりなさい」と言って失敗したあとですから、今度は「お上がりなさい」とは言わなかったのです。
「よろしゅうございますか、入らせていただいても。」
「いいんです。さあ、ずっと。」
「それでは。」
と言ったかと思うと、狸は床(ゆか)の下へずるずると入ってしまいました。
【芥川龍之介『トロッコ』より】
良平(りょうへい)は二人の間にはいると、力一杯押し始めた。
「われはなかなか力があるな」
他(た)の一人、―耳に巻煙草(まきたばこ)を挟んだ男も、こう良平を褒めてくれた。
その内に線路の勾配(こうばい)は、だんだん楽になり始めた。「もう押さなくとも好(よ)い」―良平は今にも云われるかと内心気がかりでならなかった。が、若い二人の土工(どこう)は、前よりも腰を起(おこ)したぎり、黙黙と車を押し続けていた。良平はとうとうこらえ切れずに、怯ず怯ず(おずおず)こんな事を尋ねて見た。
「何時(いつ)までも押していて好(い)い?」
「好(い)いとも」
二人は同時に返事をした。良平は「優しい人たちだ」と思った。
五六町(ごろくちょう)余り押し続けたら、線路はもう一度急勾配になった。其処(そこ)には両側の蜜柑畑(みかんばたけ)に、黄色い実がいくつも日を受けている。
「登り路(みち)の方が好(い)い、何時までも押させてくれるから」―良平はそんな事を考えながら、全身でトロッコを押すようにした。
蜜柑畑の間を登りつめると、急に線路は下(くだ)りになった。縞(しま)のシャツを着ている男は、良平に「やい、乗れ」と云った。良平は直(すぐ)に飛び乗った。トロッコは三人が乗り移ると同時に、蜜柑畑の匂(におい)を煽(あお)りながら、ひた辷(すべ)りに線路を走り出した。
【竹久夢二『少年・春』より】
「い」とあなたが言うと
「それから」と母様(かあさま)はおっしゃった。
「ろ」
「それから」
「は」
あなたは母様の膝(ひざ)に抱っこされていた。そとでは凩(こがらし)が恐ろしく吼(ほ)え狂うので、地上のありとあらゆる草も木も悲しげに泣き叫んでいる。
その時あなたは慄(ふる)えながら、母様の頸(くび)へしっかりとしがみつくのでした。
凩が凄(すさま)じく吼え狂うと、ランプの光が明るくなって、テーブルの上の林檎はいよいよ紅(あか)く暖炉(だんろ)の火はだんだん暖(あたたか)くなった。
あなたの膝の上には絵本が置かれ、悲しい話のところが開(ひら)かれてあった。それを母様は読んで下さる。―それはもうまえに百遍(ひゃっぺん)も読んで下さった物語であった。―その時の母様の顔色(かおいろ)の眼(め)は沈んで、声は低く悲しかった。あなたは呼吸(いき)をころして一心(いっしん)に聴き入るのでした。
誰(た)ぞ、駒鳥(こまどり)を殺せしは?
雀(すずめ)は言いぬ、われこそ! と
わがこの弓と矢をもちて
わが駒鳥を殺しけり。
これがあなたの虐殺者(ぎゃくさつしゃ)というものを聴き知った最初であった。
あなたはこの恐ろしい光景を残りなく胸に描(えが)き得た。



