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2017.03.13

心理学科

テーマコラム 心理学科での学生の「成長」第5回 大学での学びに不可欠な心理学

 テーマコラムでは、「心理学科での学生の成長」という同じテーマのもと、学科の教員がコラムを執筆して意見や考えを発信してきました(注1)。第5回で最終回となる今回は、認知心理学をベースとして,教育や臨床にも詳しい長野先生のコラムをお届けします。「大学での学び」は、高校までと何が違うのでしょうか。大事にしたいテーマです。皆さんもコラムを読んでぜひ考えてみてください。
 
  注1)過去のテーマコラムはこちら 第1回 第2回 第3回 第4回
 
            
テーマコラム   心理学科での学生の「成長」
第5回(最終回) 大学での学びに不可欠な心理学
 
 卒業研究を提出し、最後の試験も終えた心理学科の4年次生は、卒業式までのあいだの2月下旬から3月中旬にかけて、どのように過ごしているのでしょうか。就職先での研修、卒業旅行、新居探しと引っ越しの準備、加えて、少人数教育の本学ならではのことと思えるのですが、1・2年次の基礎・応用演習のクラス会や3・4年次のゼミ会があります。さらに、心理学科ならではのこととして、履修した授業の内容や担当教員との出会いを気のおけない友人と振り返りながらの認定心理士資格申請書類の作成もあります。「これまで」と「これから」が交錯する日々を楽しんでいる様子です。
 最近の出来事、失敗や躓きについても、おもしろおかしく語るようになった学生さんたちと接していると、心理学が言う適応としての「成長(変容)」と、高校までの学校教育で言われている順応としての「成長(発達・向上)」とは違っていることに気づかされます。
 大学院を修了し、いよいよ臨床心理士の資格試験に備える院生はなおのことですが、学部での4年間、心理学を専らにして学んだ体験は、解からないことをこそ学ぼうとする〈逞しさ〉として結実するようです。コツコツと考え工夫する過程に充実を見いだし、学びに終点がないことに気づいている4年次生たちには〈頼もしさ〉を覚えます。
 
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【福岡女学院大学の花壇はどこかしらイギリス風】
 
 やや理屈っぽくなりますが、進路選択の岐路に立っている高校生にとっての一助になれば何よりだということで、「心理学に学ぶうちに〈逞しさ〉と〈頼もしさ〉が培われるのは、なぜ?」と、考えてみます。
 紀元前から、魂とか精神とか名づけられた心の仕組みと働き(心理)は、説明が難しく不思議に満ちているがゆえに識者たちが関心を向けざるをえないことでした。今日でもそうです。たとえば、脳科学や人工知能の研究が解明しようとしていことも、つまるところ私たちの心理です。心理学は、そういう学問・研究なので、受験勉強(教科教育)が一段落した後、常識(あたりまえ)に首を傾げ、未知や未解明のことについて考究する高等教育の場で学ぶことになります。
 正答のない問いをめぐる学びを体験することによって、当人が発揮する〈逞しさ〉、他者が覚える〈頼もしさ〉を身につけた学生さんたちは、職業人や家庭人として、何をどうしたらいいかがわからないときでも心が折れることなく〈しなやかさ〉を保てることでしょう。
 心理学が念頭においている高等教育(大学)の高等の意味については語弊を解く必要がありそうです。かつては高等学校(高校)の高等もそうだったのですが、高等は複雑を意味します。たとえば、高等動物と下等動物との違いは、生体の構造・機能や行動の複雑さの違いです。この心理学の発想では、社会生活が高度な知識を必要とすると言うときの高度も複雑を意味します。高度な知識とは、誰もが解かるという点で基本とするにふさわしい知識(基本知識)が複雑に組み合わさった知識のことなのです。
 特定の領域に閉じた専門知識にも基本となる知識と高度な知識とがあります。入学したばかりの頃は、心理学の用語の多くが日常の言葉と同じなので基本知識と高度な知識との区別がつかないのですが、4年次生ともなると両者の区別がつくだけでなく、基本知識の組み合わせである高度な知識を学ぶのに必要なのは、優れた能力よりも根気や粘り強さであることに気づきます。意識にのぼるとはかぎらないこの気づきは、心理学が言う成長が裏打ちされている証しとなります。
 
 心理学は明治時代に大学が誕生したときから、学部を問わず開講されていました。心理学に学ぶということは、人間関係にとどまらず社会の出来事など、世界の観方が学ぶ前から変容することです。その変容の結果が〈逞しさ〉〈頼もしさ〉〈しなやかさ〉として体現されるに違いない、と4年次生と接していて思います。
(担当:長野)
 
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【春のキャンパス:見上げると桜の花】