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2017.01.06

心理学科

テーマコラム 心理学科での学生の「成長」第3回 成長を支えること

 テーマコラム「心理学科での学生の成長」は、学科の教員が同じテーマでコラムを執筆し、意見や考えを発信しています(注1)。第3回は、個人の成長を支えることについて、臨床心理学的な視点から考えます。どうぞご一読ください。
 
 注1)過去のテーマコラムはこちら 第1回 第2回
 

テーマコラム 心理学科での学生の「成長」
第3回 成長を支えること
 
 先日、卒業生が研究室に顔を出してくれました。彼女は、現在は教育関係の仕事をしているのですが、職場の同僚が子どもたちは何を考えているかわからないと言っているときにも、自分には大学時代に学んだ心理学の知識があることで理解ができ、心理学科で勉強したことが役に立っていると言っていました。教え子たちからも慕われ、楽しく仕事をしている様子で、少し頼もしくなったように感じました。
 
 この卒業生も言っていたように、心理学の知識は実社会で役に立つことも多く、心理学の理論や知識を学ぶことはとても有益です。ただ、こうした理論や知識を自分の中に取り入れ、活用できるようになるまでには、何があるのでしょう。この卒業生から感じた「頼もしさ」は彼女の成長を示していると思いますが、そうなるまでには何が起こっているのでしょう。
 
 学生の成長を感じるのは、たとえば何かの実習を行ったときなど、何らかの課題を自分たちで試行錯誤して取り組んだときが多いように思います。では、とにかく実習のような実践的なことをさせればいいのかと言うと、必ずしもそうとは言えないように思います。こちらも感心させられるような成長が見られるのは、やはり学生たちが真剣にその課題に取り組んだときです。簡単にはいかないところを、一生懸命に頭をひねって答えを導き出したとき、それまでよりも理解が深まり、一段レベルの高いものが生み出されます。悩むことは必ずしも楽しいことではないですが、安易な解決に流されず、本気になって課題に取り組むことは、成長のために必要なことのように思います。
 精神分析家のザルツバーガー・ウィッテンバーグは、学ぶことには欲求不満や無力感が伴うけれども、それらの苦痛が抱えられることの重要性を、精神分析の立場から指摘しています。課題に根気よくより組むことができる子どもがいる一方で、スムーズに解決できないことから生じる苦痛のために集中できなくなったり、投げやりになったり、「こんなもの無意味だ」と価値下げをしてしまったりといった行動をとる子どもがいます。そのような子どもは、自分の心の中から欲求不満や無力感といった苦痛を排除しようとして、そのような行動に至っているのですが、結果的にそれをぶつけられる教師の方も、イライラさせられるなど苦痛を経験することになります。そのために、子どもも教師も、その苦痛を即時的に消し去ってくれるような解決策を求めようとする心の動きが起こってくるわけですが、そこでまずは教師が、苦痛から逃れるためだけの安易な解決に走らず、その苦痛を抱え、子どもたちが根気よく取り組み続けることを支えることが重要だと言います。それによって、子どもたちは経験から新しい知恵を獲得し、また、ものごとを解決していくための力が自分の中にもあることを見出します。それは希望の源泉となり、その後の取り組みにおいて自分の支えとなってくれるのです。
 
 「頼もしさ」というものは、少し独り立ちができてきた感じと言うこともできるでしょう。冒頭にあげた学生も、今や独力で苦痛に耐えながらものごとに取り組み続けることが可能になってきたのだと思いますが、その力は、周囲が一緒になって苦痛を抱え、支えてくれることの積み重ねによって、身についてきたのだと思います。
 
 ここで述べたことは成長に関わる一側面に過ぎないと思いますが、このような成長の背景で起こっているさまざまな心の働きついて心理学では学ぶことができます。成長に関わる心理を学生と共に学びながら、同時に私も一教員として、一人一人の学生が成長していくことを支えていきたいものだと思いますし、また、人に支えられて成長した学生が、今度は次世代の成長を支えていってくれるなら本当に嬉しいことです。
(担当:富永)
 
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