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2022.04.09

言語芸術学科

新入生の百読百鑑レビュー③

言語芸術学科では、4年間で文学の名作100冊、演劇・映画鑑賞100本を目標とする「百読百鑑」という授業があります。

授業では、古今東西の名作文学・映画リストの中から一人一作品選んで、その作品の魅力をプレゼンテーションします。

前回に引き続き、今年4月に入学する新入生から届いた「百読百鑑レビュー」をご紹介します。課題リストから一作品選び、選んだ作品にどんな魅力があるのかを、入学に先がけて文章にしてもらいました。

言語芸術学科では在学中、様々な本や映画に出会えます。どうぞお楽しみに!

『E.T.』 by あべ

監督:スティーブン・スピルバーグ  キャスト:ヘンリー・トーマス 他

 この物語は、宇宙船から地球に一人取り残されてしまった宇宙人が無事、宇宙船に戻るために主人公である十歳の少年エリオットと協力し合う二人の友情の物語である。

 植物採集に来た宇宙人達は人の気配を感じ、地球を離れようとする。だが、一人の宇宙人は人の住む家々の光に気を取られ、宇宙船に乗り遅れてしまう。その宇宙人は叫びながら後を追いかけるも声は届かず宇宙船は空の彼方へと消えてしまう…というところから話が始まっていく。

 エリオットと宇宙人が初めて出会ったのはトウモロコシ畑であった。異変を感じた少年が夜中に畑の中を散策していると宇宙人と対面してしまう。少年が慌てふためき逃げようとする。ここは私がこの作品で印象に残った場面である。大抵の映画は少年だけが驚いてパニックになりがちだが、この作品は対面した宇宙人も一緒になって驚き、叫び回っていくところが観ている側を微笑させてくれる。少年は宇宙人を自分の家へ入らせる。宇宙人は徐々に少年に興味を持つようになる。少年の真似をしてみたり、少年は宇宙人に簡単な言葉を覚えさせたりしていた。この時の二人のやり取りはとても可愛らしく、一生懸命になって相手の伝えたいことを理解しようとする姿と二人との間に絆のようなものが生まれつつあるところが非常に愛らしい。エリオットが兄や妹に宇宙人を紹介する場面や宇宙人が人の言葉を頑張って覚えようとするところ、宇宙人にE.T.という名前を付けるところはどことなく一人家族が増えたようなそんな気分にさせてくれる。

 少年達はE.T.を家へ帰すために一致団結していく。最初は宇宙人の姿を見て気味悪がっていた人も触れ合っていくことでだんだんE.T.に対して友情や愛情が芽生え始めていくようになる。あらゆるトラブルがあってもE.T.は少年達を、少年達はE.T.を支え合って困難を乗り越えていく魅力的な描写がいくつもある。最後まで物語が非常に面白く感動的である。誰が観てもこの作品は心に残る場面がきっとあるはずだろう。

太宰治『人間失格』 by 塩タン


  太宰治の『人間失格』は大庭葉蔵という人物が書いた第一の手記、第二の手記、第三の手記とそれを読む第三者によるはしがき、あとがきから成る自伝的な中編小説。また、三十九歳という若さで自ら命を絶った作者の最後の完結作品。
 三枚の葉蔵の写真を見た第三者からの評価が書かれたはしがきから始まる。第一の手記にて、幼少期の葉蔵は他人を理解できない自分に混乱し、結果、道化を演じるようになった。「恥の多い生涯を送ってきました。」という書き出しは非常に有名で、葉蔵の自己肯定感の低さが分かる。第二の手記にて、葉蔵は中学の同級生に道化を演じていることを見抜かれ恐怖し、不安な気持ちを抱えて生活することになる。高等学校に入学してできた友人とおこなった飲酒や喫煙などの非合法な行為の数々は、葉蔵の人生を転落させていった。その末に人妻と海へ身を投げたが、自分だけ生き残ってしまう。ここから葉蔵の精神状態は、よりいっそう悪化していく。第三の手記にて、葉蔵は酒や薬、女性に溺れては心を病み、何度も死にかけ、終いには病院へと送られる。ここで葉蔵は自分が「人間失格」であると確信する。あとがきにて、葉蔵はある人物から「神様みたいないい子でした」と評価され、物語は幕を閉じる。この矛盾も物語の魅力の一つなので、注目して読んでほしい。
 この作品は、インターネットで検索すると候補に「やばい」という言葉が出てくる。全くその通りだと思う。この作品は「やばい」。大抵の人間が今後経験することのない場所まで堕ちる葉蔵の姿が生々しく描かれているため、生半可な気持ちでは読破するどころか、本を手に取ることすらしないだろう。事実、私もこの本を読破するまでに何度も読む手を止めた。それほど内容は凄まじく、最後まで読んでみたいという強い魅力がある作品だ。
 さて、果たして葉蔵は本当に「人間失格」であったのだろうか。この作品を何度も読んだ私にも、まだはっきりと分からない。

『ムーンライト』  by オレンジ

監督 バリー・ジェンキンス    キャスト:トレヴァンテ・ローズ、アンドレ・ホランド

 ブラッド・ピットが製作陣に携わり、アカデミー賞で3部門を受賞するなど高評価を得た作品である。マイアミの貧困地区に暮らす黒人少年が、自分自身を模索しながら成長する愛の物語。
 シャロンは学校では「リトル(チビ)」と呼ばれていじめられ、家では薬物中毒の母親に育児放棄されている。自分の居場所が無い中、同級生のケビンだけはシャロンを気にかけ、シャロンも彼には心を許している。ある日、シャロンはいじめっ子から逃げているときに麻薬ディーラーのフアンに助けられる。フアンに生き方を教わったり、フアンの彼女のテレサに優しくされたりしていくうちに2人の家が心の拠り所となるが、高校生になっても状況は変わらない。そんな中、シャロンは友人であるケビンに淡い恋心を抱いていることに気づき葛藤する。
 少年期、青年期、成人期と続くシャロンの成長を3人の俳優が演じているが、全体を通して内に何かを秘めているようなシャロンの瞳が同じで、本当に1人の人生を見ているように思えた。
 シャロンは大人になるとフアンのように見た目を逞しくするが、繊細で純粋な心の持ち主であることが伝わってくる。大人になってケビンと再会するシーンでは、会う直前に短い髪を櫛で整えたり、ケビンを見つけても自分から声を掛けられずにいたりするシャロンの姿が可愛らしくとても微笑ましい。
 また、シャロンの孤独や愛情を表すかのような美しい映像も強く印象に残る。特に青の演出が素晴らしく、劇中に「月明かりに照らされた黒人は青く輝く」とあるように、月に照らされたシャロンは儚く輝き、ケビンと過ごした海や深い夜の青さに息が止まるほど惹きつけられる。
 この作品はLGBT、貧困、いじめ、ネグレクトなどの社会問題が多く扱われているが、そのような現実を物申している訳ではなく、ただその世界の中にある純愛を美しく静かに照らしている。非現実的な世界観であるようで、誰もが当てはまる普遍的なラブストーリー。見終えた後に優しく静かな余韻が心に染み渡る。