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2022.04.08

言語芸術学科

新入生の百読百鑑レビュー②

言語芸術学科では、4年間で文学の名作100冊、演劇・映画鑑賞100本を目標とする「百読百鑑」という授業があります。

授業では、古今東西の名作文学・映画リストの中から一人一作品選んで、その作品の魅力をプレゼンテーションします。

前回に引き続き、今年4月に入学した新入生から届いた「百読百鑑レビュー」を3回に分けてご紹介します。課題リストから一作品選び、選んだ作品にどんな魅力があるのかを、入学に先がけて文章にしてもらいました。

言語芸術学科では在学中、様々な本や映画に出会えます。どうぞお楽しみに!

『ローマの休日』 by だいふく

監督:ウィリアム・ワイラー  キャスト:グレゴリー・ペック、オードリー・ヘプバーン

 1953年に公開された、歴史ある人気作品。自由を夢見た王女と、若干お金にだらしのない記者である男の身分違いの恋を描いたロマンスコメディ。

 ヨーロッパ各国を表敬訪問中のアン王女が、過密なスケジュールと自由のない王室での生活に嫌気がさし、最後の滞在国であるローマで大使館を抜け出すところから物語は始まる。ベンチで眠った彼女は、偶然通りかかった新聞記者のジョーに保護される。朝、目を覚ましたアンはアーニャという偽名を使って身分を隠し、ジョーの助言で一日だけローマの町を楽しむことにする。一方、その日の新聞で彼女の正体を知ったジョーは、王女の独占スクープをものにするため、彼女が王女であることを知っていること、自分が記者であることを隠し、アンと共に一日を過ごす。お互いの身分を隠しながら一日だけのデートを楽しむ二人の間には、いつしか恋愛感情が芽生えていく。

 今では少し長めの二時間弱の作品だが、物語が想像よりスムーズに流れるため、飽きずに見ることができる。白黒映画はとっつきにくい印象があったが、コミカルで思わず笑ってしまうシーンや、今の時代でも共感できる場面が多く、役者の表情も豊かで、二人がデートしているシーンでは、ローマの街並みの色が簡単に想像できた。今までの映画や小説では、こういった身分を隠す展開では、相手の正体に気づくのはかなり後というのが多かった。しかし、この映画は片方が早々に相手の正体を知り、むしろそれを逆手に近づき、片方は相手の職業を知らないまま進んでいく。彼女の正体を知ったことがきっかけで二人の距離は縮んだのだ。そこから物語が進むにつれて、ジョーに表れてくる罪悪感や切なさを痛感でき、より深く話に入り込むことができる。ただの恋愛映画ではなく、最後には人間性としても一皮剥ける作品だ。物語を通して成長していく登場人物達の心情の変化や、それを感じさせる役者の演技力、ストーリー性全てがとても印象的で、最後まで目が離せない。

宮沢賢治『銀河鉄道の夜』 by ゆいたん

 『銀河鉄道の夜』は、童話作家宮沢賢治によって書かれた作品である。宮沢賢治といえば、「雨ニモマケズ」や、『注文の多い料理店』など私達にも、非常に馴染み深い作品がある。『銀河鉄道の夜』は、主人公ジョバンニと親友カンパネルラとの幻想的な宇宙旅行をえがいている作品だ。

ジョバンニは、貧しい家計と具合の良くない母のために、印刷所でアルバイトをしており、その上、父親の漁の仕事の関係でクラスメイトのザネリから虐められてもいる。    

 ある星祭りの夜、ジョバンニは緩い丘で1人夜空を見ていたのだが、突然沢山の星の集まりが大きな煙のように見え、気がつくと電車に乗っていた。「銀河ステーション」という声が聞こえたと思うと、目の前いっぱいにダイヤモンドが輝いている。ジョバンニは何回も目を擦ってしまう。そこには、親友のカンパネルラも座っていた。

 その後二人は、不思議で幻想的な銀河の旅をする。二人はずっと一緒にいることを約束した。ジョバンニは気がつくともといた丘にいて、カンパネルラの姿が見えない。そして、なぜか冷たい涙が流れていたのだ。丘を下り、河原に行くと、カンパネルラがザネリの身代わりとなって亡くなったことを知る。ここで物語は終わりを迎えるのである。

 私はこの本を読む前は、銀河鉄道という楽しそうな列車に乗って、宇宙を旅をする話だと思っていた。しかし、実際に読んでみると、親友のカンパネルラを天国に送る話だった。この作品の著者宮沢賢治には、父との宗派の違いから最愛の妹をうまく埋葬出来なかったという過去がある。そのため、この『銀河鉄道の夜』には、妹を安らかに弔いたいという強い思いが込められているのではないだろうか。この作品のテーマである「本当の幸せ」とは、電車の中でのカンパネルラの、「本当にいいことをしたら、1番幸せなんだね」という言葉が一つの答えだと考える。そしてこれは単なる自己犠牲ではなく、自分の良心を信じるということであろう。

『千と千尋の神隠し』  by あちゃん 

原作・脚本・監督 宮崎駿    キャスト:柊瑠美、入野自由、夏木マリ

 『千と千尋の神隠し』は、主人公である10歳の少女、千尋(荻野千尋)が迷い込んだ世界の中でさまざまな出会いや体験を通して成長していく長編アニメーション映画である。

 両親の仕事の都合で引っ越すことになった千尋は、ある日両親と共に新しい家へ向かった。しかし、途中で道を間違えてしまい、森の中のトンネルに辿り着く。怖がる千尋を気にすることなく、両親はトンネルの奥へとどんどん進んで行く。トンネルを抜けた先は誰もいない街だった。お父さんは、美味しそうな匂いのする方へと足を進めた。そこには、美味しそうな食べ物が沢山並べられていて、お父さんとお母さんは食事を始めた。千尋は、心配しながらも一人で誰もいない街を恐る恐る探索した。そこで、油屋で働いている色白の謎の少年、ハク(ニギハヤミコハクヌシ)と出会い「ここへ来てはいけない、すぐ戻れ」と言われてしまう。急いで両親の元へと戻るが、そこにいたのは豚に姿を変えた両親だった。混乱状態に陥った千尋の前に、再びハクが現れ、この世界で生きていくために、そして両親を助けるために湯屋で働くように命じた。果たして、普通の人間の千尋がカエルやナメクジなどの生き物が沢山いる湯屋で働くことが出来るのか、そして豚に姿を変えた両親を人間に戻すことが出来たのか。

 私にとって、ジブリ映画の中でも、千と千尋の神隠しは、最も興味深い作品である。世界観が大変印象的で、何度見ても飽きること無く見入ってしまう。10歳の少女が人間のいない不思議な世界で、寂しさと苦悩を乗り越え、人として成長していく姿にとても感銘を受け、千尋のひたむきに頑張る姿を見て勇気づけられた。どんなに困難で苦難なことでも、千尋のようにめげずに頑張ろうと思うようになった。そして何事にも挑戦することの大切さも千と千尋の神隠しを見て学ぶことが出来た。このことから、監督・脚本・原作である宮崎駿さんは「強く生きろ」ということを私たち観客に伝えたかったのではないかと考える。

夏目漱石『坊っちゃん』  by あい

 夏目漱石が著した不朽の名作である。正義一筋な主人公が社会に揉まれていく、波乱万丈なストーリー。
 坊っちゃんは負けず嫌いで、いたずらばかりしていたため、両親から除け者とされる。そこで出会ったのが唯一可愛がってくれる下女の清であった。やがて学校を卒業し、清と別れ、田舎へ行き教師を勤める。しかし、田舎ではずる賢い生徒たちに馬鹿にされたり、気に入らない教師に騙されたりし、日に日に東京へ帰りたい気持ちが強まる一方だった。すると、意気投合した同じ数学教師の山嵐が、辞職を迫られていることを知る。そこで、坊っちゃんらはある計画を実行する。
 この作品は、ページ数としては多くなく、2、3時間程度で読み終える。しかし、起承転結がしっかりとしており、十分な満足感が味わえるだろう。使われている用語は当時のもので、やや難しめだが、注釈がある場合が多いので、読み進めやすい。
 私が『坊っちゃん』でおもしろいと思ったのは、坊っちゃんの根っからの江戸っ子気質だ。どんな事件が起きようとも坊っちゃんの考えの軸はブレない。義理を大切にする姿勢は幼少期から変わらない。そこが周りとの対比となり、より深い人間ドラマが作られていく。「親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている。」 大人になるにつれて、正義感を持っている人間は損をするのだろうか。この作品が今もなお愛される作品になるのは、多くの読者が似た悩みを持っている証拠であり、こういう設定がしっかりしているからだろう。
 また、言葉が秀逸でおもしろい。昔の文豪が著した小説となれば、手にとってみても難しそうだと感じて結局買わないことが多い。大方現代とのギャップに置いていかれるという理由が主だろう。だが、この作品では、主人公が感じる違和感や怒りは身近なものが原因だから、非現実的に感じにくい。特に気に入らない相手にあだ名をつける場面では言葉が分かりやすく、自分も経験があったので、素直に笑った。気持ちが沈んでいる人にこそおすすめの1冊である。