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2022.04.07

言語芸術学科

新入生の百読百鑑レビュー①

言語芸術学科では、4年間で文学の名作100冊、演劇・映画鑑賞100本を目標とする「百読百鑑」という授業があります。

授業では、古今東西の名作文学・映画リストの中から一人一作品選んで、その作品の魅力をプレゼンテーションします。

今回から、今年4月に入学した新入生から届いた「百読百鑑レビュー」を数回に分けてご紹介します。課題リストから一作品選び、選んだ作品にどんな魅力があるのかを、入学に先がけて文章にしてもらいました。

言語芸術学科では在学中、様々な本や映画に出会えます。どうぞお楽しみに!

コナン・ドイル『バスカヴィル家の犬』(訳:延原謙) by はる

 推理小説として有名なシャーロック・ホームズシリーズの長編作品の一つである。ホームズとワトスンがバスカヴィル家の当主の死の真相とバスカヴィルの館の周りで次々と起こる奇妙な出来事を解き明かしていく物語だ。
 物語の舞台は、口から火を吐く恐ろしい魔犬の伝説があるバスカヴィル家。そのバスカヴィル家の当主である「チャールズ・バスカヴィル卿」が遺体で発見された。死因は心臓発作であるが、チャールズ卿の友人である「モーティマー医師」は遺体のそばに巨大な犬の足跡を見つけた。この巨大な犬の足跡と魔犬の伝説に何か関係があるのならば、チャールズ卿の相続人であるヘンリー・バスカヴィル卿に何か不吉なことが起きてしまうかもしれない。懸念したモーティマー医師はロンドンの探偵「シャーロック・ホームズ」に事件の調査を依頼した。怪しい警告文、夜中の館に聴こえる女の泣き声、大底なし沼に響き渡る恐ろしい断末魔など次々と起こる不可解な謎にワトスンとホームズが挑んでいく。
 情景描写が秀逸であり、読んでいるうちにあっという間にストーリーに引き込まれた。ワトスンが沼沢地で恐ろしい呻き声を聞いた場面では、細かい情景描写によって陰鬱で不気味な雰囲気を醸し出し、読者にも緊張感を与えた。
 ストーリー全体的に暗い印象だが、ロンドンの事件で不在だったホームズが再び登場するシーンでは、美しく輝く夕やけ空が印象的に描かれており、そこから明るい印象を与えられた。そして後のホームズの「ワトスン君、夕やけが美しいね」という台詞から、私は夕やけの逆光でシルエットになったホームズが頭に浮かんだ。遂に現れた主人公ホームズ。この美しい登場に私は心を奪われた。このシーンは1番の見所だと思っている。
 合理的なホームズに対して話の内容はオカルトチックであるため、事件の真相はどのようなものになるのかワクワクしながら読み進めことが出来るオススメの作品なので是非読んでほしい。

太宰治『人間失格』 by ayano

 「恥の多い生涯を送って来ました。」
 作者の数ある作品の中でも、特に秀逸な書き出しのこの一文は、聞いたことがあるという人も多いだろう。大庭葉蔵を主人公としたこの作品は、作者最期の完結した作品であるとともに、作者の自己投影が最も顕著に現れた作品である。
 幼いころから人間不信であった葉蔵は、人間を恐れ、碌に自分の意見も言えない愛想笑いの上手な子供であった。しかし、他の人と同じように人間を愛し、また、愛されたいと切に願い、生きていくうえでのエゴイズムに悩みながら辿り着いた考えが、道化だった。人間社会の異邦人である自分が、どうにかして人間らしく生きられるよう考えた苦肉の策で、それを作者は「人間への最後の求愛」である「悲しい道化の一種」とあらわした。
人間への恐怖も自身の憂鬱も隠して無邪気な楽天家を装った道化師は、孤独の陰で女、酒、薬に蝕まれる。いつしか人間として生きていくことに絶望を感じた彼は、脳病院にて「人間、失格。もはや、自分は、完全に、人間で無くなりました。」と「人間失格」の烙印を自らに押し、廃人となった。それでも彼を知る者の一人は「神様みたいないい子でした」と言い、物語は幕を降ろす。
 「HUMAN LOST」を前身とする「人間失格」は、先述した通り作者と主人公の類似点が多い。名家の生まれであり、成績優秀な児童期。度重なる女性との心中未遂事件で自殺幇助罪に問われる点や、薬漬けの生活に頭を抱えていた点など、酷似している。そしてこの作品を書き上げた後、彼の望んだ心中という形で死を遂げた。
 私にとってこの作品は、第二次世界大戦の前後という不安定な時代で藻掻くように生きた、ある種のロマンティックさすら感じる作者の生き様そのものではないかと思う。
 太宰治の生涯、という事前知識がある状態でこの作品を読んだときは、とても衝撃的だった。それまでの作品には無い、作者の人生を賭した告白。きっと作者の生涯を知らなくても、彼の世界に引き込まれることは間違いないだろう。

『千と千尋の神隠し』  by いくち 

原作・脚本・監督 宮崎駿    キャスト:柊瑠美、入野自由

 『千と千尋の神隠し』は、10歳の少し内気な女の子、萩野千尋が不思議な街で豚の姿に変えられてしまった両親を助けるというファンタジー・アニメーションである。このアニメを小さい頃見たことのある人は多いと思う。私自身も幼稚園や小学生の頃に何度か見たことがある。しかし最近あらためて見ると、見方が変わっており沢山の印象的な場面があった。そのいくつかを紹介しよう。

 まず、千尋が不思議な街で両親を助けるために何度も負けずに「ここで働かせてください」と言い立てる場面だ。その場面までの千尋は両親に引っ付いて甘えていたり、すこし不器用だなと思わせる所があったりした。そんな千尋が大きな声で一生懸命言い立てる姿には「両親を絶対助ける」という強い意志を感じた。

 彼女の強い意志は、「油屋」という体を癒す温泉のようなところで働く場面にもあらわれている。ひどく汚れたお客が来た時に、千尋はそのお客のもてなしを押し付けられてしまったが、最終的にはお手柄となる。千尋が先頭となって油屋のみんなで力を合わせて解決する姿は千尋の成長を感じられた。

 千尋は、彼女にとって大切な人であるハクを救う。ハクは竜の姿になった時に怪我をして危ない状態に陥っていた。そのとき千尋は血だらけになって弱っているハクの口の中に自分の持っていた団子を薬がわりとし、それを暴れて飲み込もうとしないのをがむしゃらに止めてなんとか助ける。不思議な街で出会った大切な人を救い出そうと全力になる姿には心を打たれた。

 感じたことを実際に文字にしてみると、幼稚園や小学生のときの自分とは、『千と千尋の神隠し』を見たときの感じ方は大きく変わっているんだなと思う。かつての自分は千尋が両親を助け出して現実に戻れてすごいと思うくらいだった。しかし今は、映画の中で自分の意志を持つようになったり誰かのために全力になったりして少しずつ強く成長している千尋に気付いた。千尋が成長しているように見ている私たちも成長していると思った。