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2018.07.27

メディア・コミュニケーション学科

授業紹介:福岡市美術館の学芸員に学ぶ、時間・空間・記憶の重なり

新入生が集団制作に取り組む「ワークショップA」(前回の様子はこちら)の授業で、福岡市美術館学芸員の正路佐知子さんをお招きし、美術館のお仕事や、ご自身がキュレーションした展示についてのゲスト講義をしていただきました。1979年に大濠公園のすぐそばに開館した福岡市美術館は、大規模なリニューアル工事のために現在は休館中です。この大きな節目を迎える直前に、正路さんは『歴史する! Doing history!』と題した企画展を開きました。

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この展示のタイトルは、歴史学者の故・保苅実氏が著書『ラディカル・オーラル・ヒストリー』で主張した、歴史の捉え方に由来しています。保苅氏が「もう歴史というのはそこらじゅうにあるんですよ。歴史が僕らに語りかけてくる言葉に耳を傾ける」と提起したように、美術館の歴史もさまざまなところから現れるそうです。「美術館の歴史」というと、展示される作品や、その鑑賞を目的としたお客さん、そこで働く人たちの関わりが真っ先に思い浮かぶかもしれません。ところが、実際には美術館はより多くの人々に開かれています。たとえば、大濠公園へのお散歩の途中で涼みにくる方。併設のカフェやレストランを利用する方。急にトイレに行きたくなった方。などなど……。

企画展『歴史する! Doing history!』では、こうした美術館に関わる人やモノやできごとの多様なつながりが織りなしてきた過去を、より幅広い「歴史」として感じられるような試みが集まっていました。たとえば、リニューアルによって失われてしまう美術館のすがたを一般の方々に撮影・記録してもらう参加型のプロジェクトでは、プロの写真家とはひと味もふた味も違う角度から館内の様子がさまざまに切り取られていました。アーティストが美術館内にある全ての時計を撮影した作品も興味深く、同じ館内で刻まれたそれぞれ異なる時間の厚さに、じわじわと思いを馳せました。

スライドで詳しくご紹介いただいた出展作品はいずれもユニークで、特に印象にのこったのは展示室内にあるシャッターを使ったインスタレーションです。一般的な美術館は、自然光が作品を傷めないように、窓が少なく設計されています。しかし、福岡市美術館を手がけた前川國男氏は、光を取り入れて開放感を出すために、窓のある展示室をつくりました。実際には、その窓をシャッターでふさいで展示を行うことがほとんどだったそうですが、休館直前で通常の作品がないがらんとした展示室では、窓から光を存分に取り込めます。シャッターは時間が来ると定期的に上げ下げするように調整されており、ガラガラと音を立てながら光が差込み、また暗くなる様子には、さまざまなメッセージを読み込めそうでした。
 
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展示についてのお話をうかがうなかで、正路さんが学芸員として何かを決断する際に、必ず「なぜ○○なのか?」を徹底的に考え、その問いに対するこたえや理由を丁寧にことばにしていく姿勢に心をうたれました。それぞれの深い洞察を知った学生たちはおのずとメモをとり、私も終始頷かされました。今回、ワークショップAで1年生が挑む制作テーマ「場所とモノ」に関しても、多くの気づきがありました。

正路さんのお話をお聞きしたのち、各グループが取り組む作品の展示企画案をみていただきました。企画した本人たちが気づけていない改善点や、解決すべき問題をプロの目で見抜いて一石を投じていただき、ハッとする瞬間がたくさんありました。

正路様、お忙しいなかお越しいただきありがとうございました。
 
学科Today編集担当)