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2023.09.22

言語芸術学科

【授業紹介】国内フィールドワーク(実践)② 俳諧紀行文

今年も「国内フィールドワーク」の実地研修が行われました。

松尾芭蕉が確立した「俳諧紀行文」の形式と精神で、学生たちも研修旅行中の1コマを切り取ってみました。

若草山(奈良)

言語芸術学科2年生 T.Kさん

 ジャリ。ジャリ。友人2人と共に山頂へと続く階段をひたすら登る。どれだけ登っても終わりの来ない階段。日差しにやられ、肌はジリジリと焼け、穴という穴から汗が噴き出してくる。はぁ、はぁ、と疲れの息を上げながら、重い足取りで階段を登っていく。そんな束の間に、チラリと周りに目をやれば、のどかな草原が広がっていた。

 実にのどかだ。たまに来る涼しい風が私を慰めてくれる。それを励みに、あともう少しで着くであろう山頂に向かって、私は歩みを進めた。そして、最後の階段を登りきった時、視線を後ろへ向ければ、広大な世界が広がっていた。

 どこまでも続く広い世界。絶景とはこの事か。これを山頂で一望できるのは登った者だけの特権だ。私はこの光景を友人2人と共にしかと眼に焼き付けた。

 この事をみんなにどう伝えようか。そう私は考えを膨らませながら山を後にした。

 見渡せば 天地広がる 夏の日よ

新世界・通天閣(大阪)

言語芸術学科4年生 N.Yさん

 フグや漁船が壁からせり出す飲食店、大当たりのベルが突然鳴り響く射的屋、店先には若い兄ちゃんが誰に声を掛けようか見定めている。この通りは多国籍の言語が飛び交い、多くの人で賑わっていた。自撮り棒で記念撮影をしたり、食べ物を片手に歩きながら談笑したりしている。そんな人たちを横目に、進んでいくと目の前には大阪の街並みが一望できる展望台がそびえ立つ。大阪のシンボルとも言える通天閣だ。

 ここに至るまで私は正直ビビっていた。どこを切り取ってもイラストと文字の主張が激しく圧が強い。おまけにビビットカラーで目にも鮮やかだ。午前中に行った「さかい利晶の杜」で感じた繊細さとは真逆の雰囲気に困惑し、気圧されてしまった。テレビで見ていたザ・新世界を目の当たりにして、コテコテとはまさにこういうことなんだなと実感した。

 そんな新世界の中でも、繊細さを感じる物に出会った。通天閣の天井画である。通天閣の真下には天井画があり、そこには三羽の孔雀とたくさんの花々が淡い色で丁寧に描かれている。孔雀の羽が一本一本線で表現されており、躍動感さえ感じられた。私はその優雅さに圧倒され見上げたまま固まってしまった。通天閣の下に絵があることさえ知らなかった上に、一瞬で目を惹きつける作品だとは思いもしなかった。

 どうして今まで知らなかったのだろうかと疑問が湧いた。そのくらい衝撃的な体験で、とても印象に残ったのである。この空間はまさに別世界だった。

 別世界 通天閣の 天井画

さかい利晶の杜(大阪)

言語芸術学科2年生 Y.Rさん

 特別な日にしたかった。

 買ったものの機会がなくタンスの肥やしどころか、ダンボールの肥やしとなっていたGRLの“2Way花柄セパレート浴衣”。ワンピースの上から上着を羽織り帯を締めると浴衣に、ワンピースのみでの着用もできるというような代物だ。基本パンツスタイルの私だが、このワンピースを持って行けばズボンがひとつ節約できる!とひらめき、ゆっくり畳んでドタバタと他の服と一緒にキャリーケースにぶち込んでいた。

 ああ、そうだ、なんか「さかい利晶の杜」で茶の湯体験やるって言ってたなー、じゃあ浴衣っぽいこのワンピース羽織ったろーと、安直な考えで服装を決め、朝食を食べ損ねて一日がスタートした。

 「ここの棚に靴を置いてお上がりください」。そう言われるがまま、靴を置いて靴下を履いて、久しぶりに畳を踏みしめた。

 

 祖父母の家にある畳を踏んで以来だ。

 今はもう幼少期のように祖父母の畳の上でのんびり寝転がったりペットや妹と仲良く遊んだりしない。きっと今後一切無いだろう。

 筋肉痛で張ったふくらはぎと歩き疲れて痛む足に気を取られてうなだれるように首を落として転ばないように歩いた。

 正座してお茶の方に頭を下げると自分の新しい服も視界に入ってきてむふふん♪︎

 天井がどうだ、この作りがどうだ、作法が、味が、畳縁を踏まないように、待庵(たいあん)を見学だ、綺麗だ、技術がどうだ、とたくさんのことを考えたが、待庵で一度深呼吸をしてふと感じた。

 なんか気分いいな。と。

 

 真新しいそれっぽい服で、懐かしの畳を小股でスッスッスッと音を切って歩くことが不思議と気持ちよかった。

 お茶の場で一度頭を下げることでこんなに心地よい気持ちを知れるもんなんだなと少し的はずれなことを考えてたら待庵の躙り口(にじりぐち)近くの壁にコオロギが引っ付いてるのを見つけて友と二人で静かにびっくりした。

 

 懐かしや 畳の香り 秋近し

 

 「さかい利晶の杜」2階の与謝野晶子の展示で、“感情を確かなものにするには思想の修養によって理性を健康にして頂きたい”という言葉を目にした。ボーッとしているようでいて、考えたり思ったりすることは沢山ある私だが、見聞きして考えたことより、ふと思った気持ちを大切にできるよう、学んだことを感じることの多さへと昇華していきたいと思った。

 これまでの歴史で大きな存在、人々の癒しや政治での要にもなり得た「お茶」の場のことを見聴きし感じ、過去に思いを馳せながら今ある自分を見つめ直したとき、畳に懐かしさを感じる自分に切なさを感じた。

 懐かしさを感じるものは同時に、今はそれが無いことを指していると思う。夏の次は秋が来て、凍えるような厳しい冬が来る。

 しかしいつかはまた春が来ると信じていたい。