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2015.01.24

言語芸術学科

「百読百鑑」レビュー 安部公房『砂の女』 by みりん

一般の読者に余り馴染みのなかった前衛作家、安部公房が一躍有名になったきっかけの作品である。20カ国語に翻訳された名作。

一人の男が休暇を利用し、昆虫採集の為に砂丘へやって来た。新種の昆虫を発見する為である。しかし、3日間の休暇の初日は成果は得られなかった。帰りのバスが終わってしまったことを知り、砂穴の中にある一軒家に泊めてもらうことになった。家には、三十前後の小柄な女が一人いた。男が風呂に入りたいと言えば、水がないからと断られる。食事は砂が入らないように傘をさして食べなければならない。男は今夜だけだからと我慢した。しかし、目を覚ますと裸の女が寝ている。そして、砂穴に入る為に使った縄梯子が取り外されていた。砂穴に閉じ込められた男があらゆる方法で脱出を試みる話である。

この作品を読んで面白いと思ったところの一つは、砂穴にある家だ。今にも倒れてしまいそうで、屋根から砂が降ってくる。水は、部落の人が配給するのみで、砂掻きをするのが仕事の生活なんてまず、普通では考えられないし、砂穴に家を建てようなんて考える人なんてそうそう居ない。

もう一つは、この家に住む女だ。男が初めて来た日の翌朝、きめ細かい砂の皮膜に覆われた裸の女が寝ているという場面もとても頭に残っているのだが、それより驚いたのは、女がこの砂穴から出ようとしないことである。出られないから諦めているのではなく、この砂穴から出たいという意志がないのだ。普通このような生活をしろと言われたら誰でも逃げ出したくなるだろう。私だってこんな生活はしたくない。しかし、この女は逃げ出そうとしないのだ。なぜこの女は逃げ出そうとしないのか。なぜこの女は何もかも制限されている砂穴の生活を嫌だと感じないのかを考えさせられた。

最後は男が考えた脱出作戦である。一見阿保らしい作戦だが、とてもリアルで面白かった。
この作品の全体の内容としては、砂穴に閉じ込められた男が脱出しようとするという簡単な話だが、男の行動や心情がリアルで面白く、また感情移入しやすく、読んでいる間終始口が渇いた感じになった。最後、男は脱出できたのか。また、女はどうなったのかを是非読んで確かめてほしい。