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2015.01.24

言語芸術学科

「百読百鑑」レビュー 北杜夫『夜と霧の隅で』 by あゆみ

【百読百鑑レビュー】

北杜夫『夜と霧の隅で』 by あゆみ

 人は極限状況にある時、何を思うのだろう。特に死と直面した時、人は何を考えどう行動するのだろうか。人にはいつか死が訪れるものだ。しかし、その「死」が人為的であり作為的である場合、それを止めるべきだという考えはあってしかるべきだ。
 『夜と霧の隅で』は、第二次世界大戦末期にナチス・ドイツで行われたT4作戦(優生学思想による安楽死政策)を元にした小説である。作戦に抵抗し、患者を救おうとあらゆる治療をする精神科医たちの苦悩や葛藤が描かれている。
作者は生前、精神科医でもあった。そのため、精神的な病の患者に対する接し方や考え方について、この作品には精神科医ならではのリアリティある描写がある。同時に、精神的な病に対して医師として向き合う難しさも描かれている。
ナチス統治下という特異な状況の下では、人々が持つ意識や考え方の指針は少なからず固定されてしまうものだと思う。なぜならそれは、急に行われるものではなく、人々が違和感を抱かないよう徐々に進められているからだ。その中で一人の医師が、作戦に抵抗できるものとして、如何に最善の医療を行うかという苦悩は、この作品の中での大きなテーマであると感じる。
自分の精神は自分のものだ。追いつめられている状態で自分が何を思い何を考えるのか、普段の生活から想像することは難しい。また、その追いつめられた状態で最善の選択をしていくことは更に難しいと思う。まして、それが生命についてであれば尚更難しいものだと感じる。私自身はまだ自分自身の生命について考えるだけで精一杯であると感じてしまった。