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2024.04.18

言語芸術学科

新入生の百読百鑑レビュー 2024②

言語芸術学科では、4年間で文学の名作100冊、演劇・映画鑑賞100本を目標とする「百読百鑑」という授業があります。

授業では、古今東西の名作文学・映画リストの中から一人一作品選んで、その作品の魅力をプレゼンテーションします。

今年4月に入学した新入生から届いた「百読百鑑レビュー」をご紹介します。課題リストから一作品選び、選んだ作品にどんな魅力があるのかを、入学に先がけて文章にしてもらいました。

言語芸術学科では在学中、様々な本や映画に出会えます。どうぞお楽しみに!

蟹工船』 by すくいーず

作:小林多喜二

 『蟹工船』は、過酷な労働環境に苦しむ労働者たちを描くプロレタリア文学のひとつ。大日本帝国の資本家の資金源として活躍する蟹工船は、法の穴をついて人間を生産ラインに縛り付け、文字通り“使い潰す”ことで利益を生み出すものであった。

 「糞壺」と形容される劣悪な宿舎での生活に憂鬱、欲求不満、そして疲労を滲ませる漁夫。同業者に対抗意識を燃やし、利益のためなら人命は設備より軽いとする態度を徐々にエスカレートさせていく現場監督。彼らに容赦なく襲い掛かるオホーツク海の荒波、寒気、暴風雨。これらが綿密な描写のもと事細かに綴られている。

 …ブラックを通り越して深淵である。戦時中の極限状態にあった人々のエピソードはよく聞いていたが、それとはまた違った感触のヤミがここに広がっている。非効率的な旧時代の思想であるとそれを唾棄することはあっても、このある一隻の船で起きた出来事について主観的な感情をあれこれ持ち出すだけでは軽率だ。著者がそれを文章にしたため世間一般に届けた先の目的はそんな一瞬きりの感動で事足りるはずがないのだから。

  「休日だから仕事をするのは半日だけでいい」だとか「有給を私用してはならない」とかそういう”非常識な常識”が、この現代でもまかり通ることが知れているのだから尚更である。

 漁夫たちは監督から度々“日本男児”たれとがなり立てられる。勤勉で責任感に溢れる者。それは彼らの生きた世では万人共通の理想像であり、監督は決して価値観の押し売りをしているわけではない。しかし、漁夫たちは蟹工船以外の場所でも働いたことがある。凄惨な現場の数々とそれにさっぱり見向きもしないでいる資本家を、文字通り痛いほど知っている。終盤では尊敬する価値もへちまもないゴウマンな“主人”による度重なる惨い仕打ちにとうとう堪忍袋の緒を切らして、とびっきりのしっぺ返しをするための計画を密かに企てるのだ。

   その顛末は、是非あなた自身で確かめてほしい。

レナードの朝』 by とっち

監督:ペニー・マーシャル   キャスト:ロビン・ウィリアムズ、ロバート・デ・ニーロ

 神経科医であるオリバー・サックスが実体験を元に著作した「レナードの朝」を原作とし、映画化したヒューマンドラマ。ロビン・ウィリアムズとロバート・デ・ニーロの名優二人をダブル主演として起用し、話題となった。

 人見知りの研究医であったセイヤー医師(ロビン・ウィリアムズ)は、初めて臨床医として雇われた病院でとある患者たちに出会った。患者たちは“嗜眠性脳炎”という病にかかっており、会話をすることは疎か目を合わせることも出来ない。回復は半ば諦められていたが、セイヤー医師が患者たちの共通点に気づきとある新薬の投与を行うと、患者たちはみるみるうちに回復していった。その投薬を行った1人目の患者が、元は8歳の少年であったレナード(ロバート・デ・ニーロ)である。レナードは最初こそ世界の変貌に困惑するが、次第に病院での生活にも慣れ楽しく過ごすようになる。しかし喜びもつかの間、日が経つにつれ患者たちの体に痙攣や硬直の症状が見られるようになった。これは嗜眠性脳炎の初期段階であり、薬の効果が切れると元の半昏睡状態へと戻ってしまうということが後に分かった。その上投薬を行う度に持続効果が短くなることも判明し、患者たちはまたあの状態に戻ってしまうという恐怖、思い通りにいかない怒りや悲しみを抱える。それはレナードも同様であり、セイヤー医師や母親など周囲の人間に当たることも増えていった。しかし彼は、セイヤー医師との友情や初めての恋をなど様々な経験を通し、生きることの楽しさも同時に感じていた。

 8歳の少年を演じるロバート・デ・ニーロの演技が素晴らしく、彼が夜中にセイヤー医師を呼び出しこの世界の素晴らしさを語るシーンには心打たれた。奇跡の連続であるこの作品を見る度、レナードの言う“生きることの素晴らしさ”を実感することが出来る。年齢や精神状態により感じることが変わってくる、何度でも見返したくなる名作だ。

タイタニック』  by 佐亜門

監督:ジェームズ・キャメロン   キャスト:ケイト・ウィンスレット、レオナルド・ディカプリオ

 映画『タイタニック』は今から110年以上前の1912年に実際に起きたイギリスの豪華客船‘タイタニック号’の沈没事故をもとに作られた作品です。不朽の名作と呼ばれていることは知っていましたが実際に観る機会はありませんでした。ただ、今の年齢になってこの作品に触れたことはより深く内容を受け止めることができる良いタイミングだったように思います。

 この作品は実話がベースになっているということでこれまで観たどの映画よりもリアリティがありました。また長編映画なのですが前半は恋愛映画、後半はパニック映画といった構成と、飽きることのないストーリー展開で作品にのめり込むことができ、あっという間の3時間でした。

 映画前半はジャックとローズが出会い恋に落ちる内容を中心にストーリーが進みます。以前母から聞いていた俳優レオナルド・ディカプリオが「レオ様」と呼ばれるほど爆発的に人気が出たキッカケとなった作品だという話はとても納得できました。

 また主役の二人のラブストーリーこそフィクションですが実在した人物も多く登場するという点や実際のタイタニック号の船内の様子が細部まで正確に再現されている点はきわめてリアルに感じその世界に引き込まれます。特に一等客用の施設は豪華な装飾や調度品が施されていたそうですが映画の中でもこれらの素晴らしい設備とその船内で一等船客が優雅に楽しむ当時の様子が目の前に広がりとても印象に残りました。

 映画後半はタイタニック号の沈没という現実に起きた悲劇がリアルに描かれており、事故後のシーンは本当に息が止まると思うほど苦しい思いで画面を見ることになりました。タイタニックはその高度な安全対策で「沈まない船」と宣伝されていたそうですが氷山に衝突し沈没。犠牲者数は1,500人以上と言われており20世紀最大級の海難事故だったとのこと。

 作品の中ではこの大規模な事故の様子と合わせて死を目前にした人間の内面性、エゴを見せつけられ胸が締め付けられる思いでした。身分差で命の優劣をつけられる人、救助を求める人を見捨て自分が助かることに無心になる人、自分のことよりも人のために動ける人…窮地に陥っているからこそ現れる人間の姿に大切なことを教えてもらいました。そして何よりも「生きている今その時を大切にしよう」と思わせてくれる素晴らしい作品、私の心に残る名作となりました。