心理学Ψミニレクチャー No.2
―「なぜ?」を楽しむの巻―
心理学は、不思議を楽しむ学びと言えるかもしれません。
オープンキャンパスで来訪の折、心理学科のブースで鏡像描写を体験してみてください。そうすると、鏡に映っている像をなぞること(鏡映像描写)が、思いの外、難しいことを楽しめることでしょう。鏡を見慣れているかいないかにかかわらず、誰にとっても難しいので「不思議だなぁ」と楽しむことになります。他の人が立ち往生しているのを見て、「私だったら、もっと簡単にできる(はず)」と思うのですが、実際にやってみると、そうはいかないのです。なぞるのが星型だとわかっているにもかかわらず、笑ってしまうほど四苦八苦することになります。
日頃の生活において、私たちは、子どものときから「不思議だなぁ!」「うそでしょう!」「そんなはずはない!」など、しばしば「なぜ?」に遭遇しています。ところが、大人になると「なぜ?」と首をかしげなくなり、「ふつうは…」とか「…が、あたりまえでしょう」とか「当然…べき」などと、驚く心や好奇心に蓋をするようになります。
大学で心理学を専らにして学ぶうちに、ちんぷんかんな物事に囲まれて「なぜ?」にとりくんでいた子どもの心を取り戻すことになります。
鏡映像描写の実験は習って学ぶ学習の解明にとりくむ学習心理学に示唆を与えてくれました。たとえば、「分数計算の仕方をここまで教えたら、ふつうだったら〈できる〉はず。にもかかわらず、〈できない〉のは理解力に問題がある」というような指導は、「なぜ、こんなにわけのわからない分数が登場したのだろう?」という子どもの素朴で深い疑問に蓋をした指導なのではないか…? と、心理学は学習(学び)の過程の解明にとりくみます。
心理学にかぎらず、大学での学びには、「なぜ?」を楽しむ姿勢が不可欠です。「なぜ?」という問いを起こすのは心ですから、この点において、心理学はさまざまな学問・研究の交差点に位置しているとも言えます。
(文責:長野剛)